めにょーん

ペンギンなりに色々考えてみる

モルモットとマウスと臨床試験の誰かの上で女の子をする

LUSHがすきだ。

私はアトピー性皮膚炎で、たくさんのモルモットやマウスやブタや名も知らない誰かほか多数のおかげで、女の子の肌のフリができている。だからLUSH動物実験反対運動には賛同できないが、LUSHの製品を使い続けて10年近く経つ。


ドラッグストアに並ぶ、可愛らしいパッケージで、いかにも可愛らしい女の子の匂いのするシャンプーやボディーソープが羨ましかった。

中学や高校の周りの女子が色気づいてくる頃、クラスメイトがすれ違いざまに振りまく甘い匂いのするボディケア製品は、得てして3日も使えば発疹が出るだの肌が乾燥してめくれるだのするものであった。

時代が進めば…なんて期待をして大学の一年のころにジプシーを試みたが、憧れの女の子とやらになれないことを突きつけられるだけだった。


アトピービジネスが氾濫するネットの海の中で、どうにか縋りつけた木片は固形石鹸だった。

石鹸素地こそが神であると牛乳石鹸やらオリーブ石鹸やらを何種類か用意しておく。どれかを使い続けていくと数日マシな日があって、そのうち発疹が出る。そうなればもう使い続けると荒れる一方なので、別の石鹸に切り替えて誤魔化す。これをループする。


敏感肌向けを謳う製品は、学生が買うにはあまりにも高くて、薬草のにおいがする。

その中から、ネットで「アトピーにオススメ」と名高いものをお賽銭のように買ったこともある。あいにくウリの尿素が合わなかったのか酷い目にあって以来、試供品のミニサイズの尊さを知った。


高校生のころだったか、ショッピングモールでTHE BODY SHOPの存在を知った。

とても可愛いパッケージ、みずみずしくおしゃれな香り。

あれを女友達ときゃっきゃしながら選べたら、どれだけ楽しい人生なんだろう。

ドラッグストアに並ぶものより高価で芳しきそれらは、同時により一層高い、健常な肌でなきゃ享受できない嗜好に思えた。

女の子という生き物から強く隔絶されて、あちら側の世界にいる人たちが羨ましくてたまらなかった。


大学一年のころ、小学生時代の友人からLUSHに行きたいからついてこいというメールがきた。

腐女子である彼女はどこかしらのネットの界隈から知ったらしいゲイ御用達のお店であること、果物や野菜や花といったものを「キッチン」で調理される商品のこと、その商品名とポエムがウケることを売り文句に私に同行せよと要請したのであった。

ざっくりLUSHとやらを調べた私は、ああ、普通を持って生まれられた人たちの使うものなのね、と他人事に思いながら、下宿先から地元に下って、竹馬の友の買い物に付き添うことにした。


初めて足を踏み入れた地元にあるとある店舗のそこは、ショッピングモールの一角で明らかに濃い世界と濃い匂いを放っていた。

あまり好きな匂いとも思えなかったが、全般的におしゃれな製品デザインに、またしても女の子がかわいくあるために選べる選択肢が私の目の前にはないことを僻んだ。

店員はキョロキョロとはしゃぐ我々にすぐにとびついた。

初めて来たとつげるなり、あれよあれよと片手をスクラブマッサージされた友人は、もう一方の片手と見比べて、白くなった!お前もやってもらえよ!なんて言う。

私にその切符はないのだ…と投げ出すより強い好奇心と店員の笑顔に促されて右手を貸すと、確かに肌はさらさらと明るくなった。

でもこの手をすぐに保湿しなければ乾燥してしまう。いまは一瞬だけ女の子を体験できて浮かれていたけれど、なんて迂闊なことをしてしまったんだろう。

どんな商品をお望みですか?と我々2人に問う同じ店員に、私アトピーなので…とおじおじ告げると、店員はあー…というようなバツの悪い表情をして、そのあとは友人にだけ話しかけるようになった。

下手に期待して傷つくよりは、いるべき場所に帰ったほうがよい。

友人が何点かの商品の会計を済ませるのを待って、家路に着いた。

右手は、特に乾燥しなかった。


数ヶ月経って、あのスクラブが忘れられなかった。

乾燥もしない、肌のトーンが明るくなる、ちょっといい匂いがする。憧れの、普通の女の子が使うもの、を私も使えるのかも知れない。

私は下宿がある京都市内のLUSHを探し、店舗に乗り込んだ。

LUSHでは目的なさげな客はすぐさま店員に捕獲される。

乾燥がひどくて…アトピーなんですけど…身体を洗えるものがほしくて…と場違いを恐れながら最初に懺悔すると、その店員は最初のニコニコした顔色を全く変えずに、そういうことであれば、と私をシャワージェルコーナーへ引き連れて、これなんかは保湿性が一番高くて、匂いもラベンダーと蜂蜜で良くて、と熱心に商品のことを教えてくれた。

私はアトピーであると告白した瞬間からその以降も全く変わらず客として扱われたことに大変驚いて、試しに手を洗ってもらった。固形石鹸よりも洗い上がりがキシキシせず、おしゃれな人からする匂いがした。蝶々夫人という名前のシャワージェルだった。

その後もしばらく店中の商品を教えてもらって周ったが、いっこうに手は白く粉をふいてこない。

私は蝶々夫人の中サイズのボトルを買って帰った。使い終わるまで一日たりとも、発疹が出ることはなかった。生まれて初めて、女の子であることを許された気がした。


蝶々夫人の2ボトルめは違う店舗に買いに行った。

ここではアトピーであるといっても存在を拒絶されない。そう期待して、私を迎えいれた店員に病気を告げると、店員は驚いて、全くそうは見えないからわからなかった!実は私もアトピーなんですよ!と肘の内側の色素沈着を私に見せた。

全くそうは見えない、はステロイドのおかげによるものだが、同じ病を持つ店員は身の上からかとても親身になって商品の使用感を教えてくれた。何でも店に並ぶすべての商品を試したらしい。おすすめのものはもちろん、乾燥したり荒れたりしたものについても等しく率直に話してくれた。それが店員の務めなのか、彼女の判断なのかはわからないが、その行為と態度から私はすっかりLUSHのファンになった。


蝶々夫人が廃盤になるまで、身体を洗うことによる発疹というものに無縁になった。

今はみつばちマーチを使い続けている。

みつばちマーチは固形ソープで乾燥してしまったので、シャワージェルの中で一番、保湿性が高いというが果たして…という不安が当初あったものの、蝶々夫人ほど肌に合うわけではないが発疹はでない。


今日はみつばちマーチの匂いの髪に飽きてきて、都内の店舗に相談に行った。

シャンプー類に詳しいというその店員さんは、やはりアトピーと知っても何とも思わない様子で、保湿で選ぶならハニ髪、でもシャンプーバーもいいですよ!ロウィーナバードの匂いいいですよね私も好き!でも髪を染めたりします?私は染めてるんですけどちょっときしんじゃうですよ、あ、これとこれはあなたには勧めません。サッパリ系なので。とやはり良いも悪いもすべて白黒つけて教えてくれた。

みつばちマーチだと軋むので、でもコンディショナーとかは日頃使ってない、という私に隣に並ぶコンディショナーを勧めることなく、その店員さんがこれは指通りがよい、と挙げた中から一番好きな匂いのものを買った。

早速使ってみたが、指通りは確かにみつばちマーチより良く柔らかく、匂いもとてもよい。


すべての思想は合致しないけれど、とても安心して相談できる接客と、安心して使い続けられる憧れをもたらしてくれるLUSHの商品を私は今後も選び続けるだろう。